〇 外国人労働者は脱退一時金をどのように請求したらよいか
外国人労働者が帰国するとき、日本で払い込んだ年金保険料を無駄にしないために、脱退一時金を請求することができますが、どのように請求したらよいでしょうか。
まず、次の①~④の受給条件を満たしていて、出国から2年以内に、以下の書類を提出すれば、脱退一時金を受給することができます。
【受給条件】
①日本国籍を有していない
②国民年金または厚生年金の加入期間が6か月以上ある
③日本に住所を有していない
④年金を受ける権利を有したことがない(被保険者期間が10年未満)
【提出書類】
・脱退一時金請求書(国民年金/厚生年金保険)
【添付書類】
①パスポートの写し(氏名、生年月日、国籍、在留資格が確認できるページ)
②日本に住所を有しなくなったことが確認できる書類(住民票の除票の写し等)
③銀行・支店名、支店所在地、口座番号、口座名義確認書類(注1)
④基礎年金番号通知書または年金手帳等の基礎年金番号が分かる書類
【注意点】
・出国前に請求書を提出する場合、住民票の転出日以降に日本年金機構へ提出
・日本年金機構が請求書を受理した日に、日本に住所を有しないことが受給要件
・郵送の場合、転出日以降に請求書が日本年金機構に到達するように送付
国民年金の脱退一時金の支給額は、次の計算式で算出されます。
最後に保険料を納付した年度の保険料額 × 2分の1 × 支給額計算に用いる数
支給額計算に用いる数は、被保険者期間の月数が基準となり、上限は60月(5年)になります。ちなみに、60月以上の被保険者期間がある人の支給額は、令和6年度は 509,400円になります。
厚生年金の脱退一時金の支給額は、次の計算式で算出されます。
被保険者であった期間の平均標準報酬額 × 支給率
支給率は、最終月の属する年の前年10月の保険料率に2分の1を乗じた率に、被保険者期間の月数を基準とした数を乗じたものです。ちなみに、60月以上の被保険者期間がある人の支給率は5.5となり、平均標準報酬額が25万円であれば、支給額は 1,375,000円となります。
次に、注意事項を解説します。
(1)請求時に、受給資格期間が10年以上あると老齢年金の受給資格があるので、脱退一時金を請求することができません。また、脱退一時金を受給すると、請求前の加入期間がすべてなくなります。
(2)日本と年金通算の協定を締結している相手国の年金に加入していた期間がある人は、加入期間を通算して日本及び協定相手国の年金を受け取れる場合があります。(注2)
(3)脱退一時金の支給額は、年金加入月数の上限が60月(5年)で計算されるため、60 月超、120月(10年)未満加入した人も、60月分の支給額になります。しかも、60月超の加入期間はすべてなくなります。帰国後、再度日本へ来て働く可能性があれば、日本での加入期間は通算されるので、今回は脱退一時金を請求せずに、通算して10年加入を目指すもの良いかと思います。
(4)厚生年金の脱退一時金は、20.42%の税金が源泉徴収されます。ただし、「退職所得の選択課税による還付のための申告書」を税務署に提出すれば、還付を受けられる場合があります。なお、国民年金の脱退一時金は、源泉徴収されません。
(5)脱退一時金を請求したにもかかわらず、受給を受けずに死亡した場合は、死亡当時生計を同一していた配偶者、子、父母等が代わりに受給することができます。
脱退一時金の請求は複雑なので、外国人労働者を雇用している企業の担当者は、外国人労働者に代わって手続きをした方が良いかと思います。
そして、企業の担当者は、年金事務所や日本年金機構とよく連絡を取りあって、手続きを進めるようにしてください。
(注1)海外の銀行への送金も可能。銀行発行証明書等が必要。その銀行が日本年金機構からの送金に対応しているか確認。国内のゆうちょ銀行とネット銀行は送金不可。
(注2)社会保障協定は、①保険料の二重加入防止、②年金加入期間の通算のためにある。社会保障協定締結国は23カ国、うち通算ありが19カ国(ドイツ、アメリカ、フランス、ベルギー、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、インド、ハンガリー、ルクセンブルク、フィリピン、スロバキア、スウェーデン、フィンランド)、通算なしが4カ国(イギリス、韓国、中国、イタリア)ある。
(塚)