〇 遺族年金改正で何が変わるのか
2025年6月13日、「年金制度改正法」が成立しました。その中でも、遺族年金制度が大きく変わります。何が変わるのかをしっかり理解してください。
まず、現行の遺族年金を下図で確認しましょう。(2024年度の年金額)

(出所:厚生労働省ホームページ「遺族厚生年金の見直しについて」より、以下同様)
遺族基礎年金は、子どもの人数によって子の加算があります。上図では妻と子どもが1人なので、年金額は81万6,000円+23万4,800円(子の加算)=105万800円となります。
遺族厚生年金は、亡くなった夫の老齢厚生年金の報酬比例部分の3/4です。上図では、夫の厚生年金加入期間は8年間ですが、加入期間が25年に満たない場合には、25年加入したとみなされるので、遺族厚生年金額は43万1,600円となります。
次に、遺族年金改正で何が変わるのかを見ていきます。(施行は2028年4月予定)

1.男女差の解消と有期給付化
現行の遺族厚生年金では、女性は30歳未満で5年間有期給付、30歳以上で無期給付ですが、男性は55歳未満では遺族厚生年金が受取れず、55歳〜59歳のときも、受取れるのは60歳からとなっています。
改正後は、男女共に60歳未満で原則5年間有期給付、60歳以上で無期給付となります。
ただし、5年間の有期給付が終わったら、遺族厚生年金が打ち切られるという訳ではなく、収入が十分でない方や障害のある方には「継続給付」として、引続き遺族厚生年金が支給されます。
年収が132万円(月収約11万円)以下ならば、遺族厚生年金は全額支給され、年収がそれ以上でも、年収と年金の合計額が緩やかに増加するように年金額が調整されます。
2.所得制限の撤廃
現行では、遺族年金を受取れる遺族には「年収850万円未満」という所得制限がありました。この所得制限がなくなるため、高年収の方でも遺族厚生年金を受取れるようになります。
3.中高齢寡婦加算の段階的廃止
現行、条件により40歳以上65歳未満の子がいない妻に、年額約62万円(遺族基礎年金の3/4)の中高齢寡婦加算が支給されますが、2028年4月から25年かけて段階的に廃止されます。
4.遺族厚生年金に有期給付加算が増額
有期給付の5年間限定で、死亡した夫(妻)の厚生年金の1/4の有期給付加算が上乗せされます。その結果、死亡した夫(妻)の厚生年金の4/4が支給されることになります。
5.子の加算の増額と対象拡大
子の加算額が引き上げられ、第3子以降も一律の金額が加算されます。また、母親が再婚しても、子どもが母親と生計を共にしていれば、遺族基礎年金を子どもが受け取ることができます。
6.死亡分割制度の創設
死亡した夫(妻)の収入が妻(夫)よりも多い場合、妻(夫)の老齢厚生年金に死亡した夫(妻)の厚生年金記録が上乗せされる「死亡分割」が導入されます。死亡分割は離婚時分割と同様に、婚姻期間における夫婦合計の標準報酬総額の1/2が老齢厚生年金に加算されます。
遺族年金は、残された配偶者や子どもの生活を支えるための制度です。従来は、夫を亡くした妻を支えるという制度でしたが、これからは男女問わず生活を再建するための給付を5年間にわたって行うという制度に変わります。従って、日頃からNISAやiDeCoなどを活用して資産形成することや、民間の保険でリスクに備えることも忘れないでください。
(塚)
*このコラムは分かりやすさを優先して、簡便に書かれています。詳しくお知りになりたい方は、以下の厚生労働省のホームページをご覧ください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00020.html