〇 従業員が逮捕、会社はどうする
従業員が逮捕されました。会社はどのように対応したらよいでしょうか。性急に解雇すると不当解雇で訴えられることがあるので、次のような手順で対応するとよいでしょう。
1.逮捕時の初動対応
(1)情報収集
従業員の逮捕は、警察や家族からの連絡で発覚することが多いです。まず、情報収集をしてください。しかし、警察は逮捕後48時間以内に検事に送致するかを決め、検事は24時間以内に勾留するかを決め、勾留後20日までに起訴するかを決めなければなりません。従って、最長23日間、本人から事情を聞き出すことは難しくなります。
(2)社内対応
逮捕された従業員は当分出社できないことを社内に周知し、その従業員の仕事を他の従業員に割り振るようにしてください。逮捕されたというだけで、罪を犯したと判断することは止めてください。
(3)マスコミ・顧客対応
企業名がマスコミ報道に出た場合は、できるだけ早くコメントを出してください。例えば、「現在警察の捜査中であり、弊社としては今後の動向を注視して参ります。事実関係が明らかになったときは、その内容を踏まえて、厳正に対処して参ります」といったコメントです。
(4)本人の給与と健康保険
本人の給与は、有給休暇の申請がない限り、無給とすることで問題ありません。
逮捕・勾留中の本人の健康保険は、事業主が「健康保険法第118条第1項 該当・不該当届」の該当届を提出しなければならず、保険給付は行われなくなり、保険料を支払う必要もなくなります。その間本人は、国の負担で医療を受けることになります。一方、被扶養者である家族は、本人が解雇(被保険者資格喪失)されない限り、健康保険を利用することができます。
2.逮捕された従業員の解雇の判断
(1)本人の罪状認否
逮捕された時点で解雇するには、本人に数回面会して事情を聴き、本人が事実関係を認めていることを確認してから解雇する必要があります。ただし、本人が認めても、後日撤回する可能性があるので、慎重に判断してください。
(2)犯罪の内容や処分歴を確認
有罪判決を受けても、解雇は重すぎて不当解雇であると判断する判例があります。罪名だけで判断せず、具体的な犯罪の中身や従業員の処分歴を見て、解雇が重すぎないかどうか判断してください。
(3)長期間の身柄拘束による解雇
刑事裁判が長期化し、その期間中も釈放されず、長期間、身柄拘束される場合は、就業できない状態が続くことを理由に、解雇が認められる余地があります。
(4)解雇は有罪判決が出てから判断
逮捕後、無罪や不起訴になった場合は、解雇の撤回が必要になります。従って、解雇は有罪判決が出てから検討することが原則になります。
3.退職金の取り扱い
退職金規程で、懲戒解雇の場合には退職金が減額または不支給となることを定めている会社が多いですが、判例では、有罪判決を受けて懲戒解雇した場合でも、退職金の3割程度の支払いを命じる場合があるので注意してください。
4.就業規則の事前対策
(1)弁明の機会の例外
就業規則の条文に、「懲戒解雇の際、解雇対象者に弁明の機会(本人の言い分を聴く機会)を与える」とあっても、逮捕された場合、弁明の機会を与えることが難しくなります。そこで、「逮捕などで身柄を拘束されている場合は除く」などと記載するとよいでしょう。
(2)解雇事由の注意点
通常の解雇事由の条文では、従業員が刑事事件を犯したとしても、業務に重大な悪影響を与えた訳ではないときは、懲戒解雇はできない場合が多いです。そこで、「身柄拘束により長期間就業ができない場合」を普通解雇事由として定めておくこともできます。
従業員の逮捕時の対応や、解雇、退職勧奨については注意点が多く、解雇については対応を誤ると不当解雇となる恐れがあるので、弁護士などの専門家に相談することも検討してください。
(塚)