〇 経過的加算って何ですか

経過的加算の仕組みをご存知ですか。経過的加算は、60歳以降も働くべきかを考えるときの重要な判断基準になるので、しっかり理解しておきましょう。

経過的加算は、基礎年金が導入された昭和60年の改正で設けられました。公的年金制度の1階部分として基礎年金を導入した際に、それまでの厚生年金の1階部分に相当する旧法の老齢年金の定額部分は、老齢基礎年金よりも高額でした。そのため、経過的な措置として、差額分を老齢厚生年金に加算して支給することになりました。(下左図②の部分)

また、厚生年金の受給開始年齢が60歳から65歳に引き上げられる際、混乱を避けるために60歳から64歳の人には「特別支給の老齢厚生年金」が支給されることになりました。65歳になると報酬比例部分が「老齢厚生年金」、定額部分が「老齢基礎年金」に置き換えられますが、定額部分と老齢基礎年金に差が生じるため、その差額を解消するために経過的加算が設けられました。
(下右図を参照)

しかし、現在では定額部分と老齢基礎年金の単価はほぼ同額になり、定額部分の支給開始年齢の引上げも完了していることから、その意義はほぼ失われています。

一方で、老齢基礎年金については、対象期間を20歳以上60歳未満としているため、20歳前または60歳以降の厚生年金保険の加入期間については、定額部分相当額を老齢厚生年金に加算することにしていて、現在ではこの部分の給付が経過的加算の中心的な意義となっています。
(下左図①の部分)

(出所:厚生労働省ホームページ「経過的加算」より)

経過的加算額 = イ 定額部分に相当する額(特別支給の老齢厚生年金と同様の算定式) - ロ 厚生年金保険に加入していた期間について受け取れる老齢基礎年金の額

イ 1,734円 × 1.0 × 被保険者期間の月数(上限は480ヵ月
ロ 831,700円 × 20歳~60歳の間の被保険者期間の月数 ÷ 480   (令和7年度)

経過的加算は、国民年金を納めた年齢によって、受給金額に不公平を生じさせないための役割が大きいです。国民年金を40年納付したにもかかわらず、納付した年齢の関係で満額受給できない場合に対応するための仕組みになります。

22歳~62歳まで厚生年金に加入していた人は、経過的加算をもらえます。この人は、国民年金の満期と同じ40年(480ヵ月)、厚生年金、国民年金の両方を納付しましたが、国民年金の対象となる20歳~60歳の期間内には38年(456ヵ月)しか年金を納付していません。満額分納めたにもかかわらず、38年(456ヵ月)分しか受給できないのは不公平です。そこで、この人は2年分の経過的加算を厚生年金側で受け取ることができます。

国民年金の免除期間がある人や国民年金の未納期間がある人は、60歳以降も働いて厚生年金を納めることで、経過的加算を増やすことができます。しかし、国民年金の上限である40年(480ヵ月)に達した場合は、それ以上加算額は増えません。

厚生年金の経過的加算を受け取るために、特別な手続きは不要です。老齢厚生年金の請求手続きをする際、自動的に経過的加算の判定・計算がされ、対象となる人には年金額に加算されます。

60歳以降も働くべきかを考えるとき、国民年金の未納期間がある人は、もう少し頑張って働いてみてはいかがでしょうか。

(塚)