物価は上がるのになぜ年金は上がらない
年金受給額は年度によって金額が変わりますが、そのルールを知っていますか。今回は、年金受給額がどのような仕組みで変わるのか解説いたします。
2022年度は物価が上がっているのに、年金受給額は下がりました。2021年度と比べて0.4%の減少です。なぜ0.4%も下がったのでしょうか。
年金受給額の改定は、2つのルールで決まります。1つ目は、物価や賃金の動きに応じて改定率を決める基本的なルールで、毎年度改定された年金は、6月から4月分と5月分を合わせて支給することになります。
具体的には前年の消費者物価変動率と、2年度前から4年度前を平均した実質賃金変動率に応じて改定します。
2021年度の物価の変動率はマイナス0.2%、3年間の平均賃金変動率はマイナス0.4%となり、2022年度の年金受給額は、新ルールにより下落幅が大きい賃金に合わせてマイナス0.4%となりました。
2つ目は、少子高齢化による年金財政難を回避するために、年金受給額を抑える調整率を差し引く、マクロ経済スライドを2004年から導入しています。
マクロ経済スライドは、将来の現役世代の負担が大きくならないように、物価や賃金の改定率を調整して緩やかに年金支給額を調整する仕組みです。
物価や賃金がある程度上昇する場合には、下図のように適用します。
(出所:日本年金機構のホームページより、下記3点の図も同様)
しかし、物価や賃金の伸びが小さく、適用すると年金額が下がってしまう場合には、下図のように調整は年金額の伸びがゼロになるまでに留め、結果として年金支給額の改定は行わないようにします。
物価や賃金の伸びがマイナスの場合は、下図のように調整を行わず、下落分のみ年金支給額を下げることにします。
2016年から、年金受給額の改定に反映しきれなかったマクロ経済スライドの調整率を、翌年度以降に繰り越すキャリーオーバー制度が導入されました。
2022年度の年金受給額の改定では、マクロ経済スライドの調整は行われませんでしたが、2022年度の調整率マイナス0.2%と2021年度の調整率マイナス0.1%の合計マイナス0.3%が、2023年度以降に繰り越されました。
2023年度は民間試算で2022年の物価が2.5%上昇すると仮定すると、2022年度のマクロ経済スライドの調整率マイナス0.4%と、上記の繰り越されたキャリーオーバー分マイナス0.3%を差し引いて、年金受給額が1.8%増加することが予想されます。
年金受給額がどのように改定されるのか、分かりましたか。前年の物価や賃金の変動と、変動を抑制するマクロ経済スライドの調整、さらに調整不足を翌年度以降に繰り越すキャリーオーバー制度が、年金受給額の改定に影響することを覚えておいてください。
(塚)